日本動物行動学会 2025年度アンバサダー報告
京都大学大学院理学研究科 日本学術振興会PD 佐藤初
京都大学大学院理学研究科でポスドク(学振PD)をしております佐藤初と申します。私はサンゴ礁魚類の擬態と採餌戦略について研究しております。今回は日本動物行動学会の国際交流アンバサダーとして、2025年8月25日から8月30日にかけてインド・コルカタで開催された Behaviour 2025: XXXVIII International Ethological Congress(第38回国際動物行動学会)に参加いたしました。

Behaviour2025のパネル
はじめに、国際交流アンバサダー事業について簡単にご紹介いたします。毎年、Journal of Ethology に受理・出版された論文のうち数本が Editor’s Choice 論文に選ばれます。最も投票数を獲得した論文は Editor’s Choice Award として表彰され、著者は国際学会への参加支援として上限40万円までの助成を受けることができます。Award の著者がアンバサダーを辞退した場合には、他のEditor’s Choice 論文の著者の中から順番に候補者が決定されます。
この事業の主な目的は、Journal of Ethology の国際的な認知度を高め、海外からの投稿数を増やすことです。今回はその取り組みの一環として、昨年に引き続き、新たに設けられた動画主体の論文カテゴリー Video Insight の紹介と、公式YouTubeチャンネルを活用したプロモーション活動について説明いたしました。参加する学会は自由に選択できますが、動物行動学に関する研究発表が多いのはIEC(International Ethological Congress)か、ISBE(International Society for Behavioral Ecology)であり、両者は隔年で交互に開催されています。今年はIECの開催年にあたり、コルカタでの参加となりました。

学会会場での広報活動に使ったチラシ(左下の2枚)
8月24日の深夜、ネータージー・スバース・チャンドラ・ボース国際空港(コルカタ)に到着しました。人生初めてのインドです。Uberを利用してホテルに向かいましたが、クラクションの嵐、でこぼこの道、なぜか途中で停車してどこかへ行ってしまうタクシーの運転手、野良犬・牛・馬など、入国して1時間ですでに圧倒されそうでした。ただ、幸い宿泊先は落ち着ける環境だったため、安心して休むことができました。

インド、コルカタの街並み
翌日昼から、ビスワ・バングラ・コンベンションセンターで大会が始まりました。今回はインド、イギリス、ドイツ、オーストリア、アメリカ、日本、イスラエル、オーストラリア、イタリア、カナダから569名の研究者が参加しました(口頭320件、ポスター141件)。年齢層は、博士課程の学生から30代までの若手研究者が多いという印象でした。

学会会場となったコンベンションセンター

Opening ceremonyの様子
今回のアンバサダーとしての私の作戦は、プレゼンテーションの中で動画を使っている方には発表後にできるだけチラシを渡しに行くというものです。例えば、樹洞にたまった水に産卵するカエルのオタマジャクシを捕食するヘビの映像など、非常に興味深い動画を提示していた発表者がいましたので、積極的に投稿先としてご検討いただけるようお伝えしました。また、Coffee breakでは多くの研究者の方々に声をかけ、一通り研究内容を伺いながら、動画を撮影するような手法を使っている方にはチラシをお渡しするようにしました。動画を扱っていない方には、YouTubeチャンネルをご紹介し、学会の活動に関心を持っていただけるよう努めました。

Video Insightのチラシを使って説明する様子
私の場合、国際学会への参加経験が多いわけではなく、Behaviour2025でお会いする方は、ほとんどの方が初対面でした。しかし、Journal of Ethology の取り組みについて驚くほど全員から好意的な反応をいただき、「面白い動画を持っているがデータが少なく論文にできなかった」という声も数多く寄せられました。まさにVideo Insightの求める趣旨とマッチする研究者が沢山いることが実感できました。

Video Insightに興味を持った研究者が色々な方に広めてくださいました
他誌でも類似した短報を扱う論文誌はありますが、その際の高額なAPC(論文掲載料)を懸念する方もいらっしゃいました。しかし、Journal of Ethology の場合はそのような費用が不要である点、さらに動画はMOMO(Movie Archives of Animal Behavior)に登録され一般公開される点が高く評価されました。加えて、Editor’s Choice に選ばれた場合はオープンアクセス化され、YouTubeでの宣伝も受けられることは大きなインセンティブとなり、多くの方に喜んでいただけるポイントでした。

この活動の中で、『Ethology』の編集長 Wolfgang Goymann氏にも直接ご紹介する機会を得ました
アンバサダー活動と並行して、もちろん自身の研究発表も行いました。今回はポスター発表を選択しましたが、アンバサダー活動との相性が非常に良かったと感じています。分野を選ばず広く色々な研究者と交流し顔見知りになったことがきっかけで、ポスターにも多くの方が訪れてくださいました。私はこれまで魚類の捕食行動の水中映像を大事にしており、その経験から動画が持つ強い説得力を実感しています。今回も、自らの研究を紹介する中で、動物行動における動画の重要性と論文出版に結び付ける意義を強調してお伝えできたと思います。
慣れないインドでの広報活動に不安もありましたが、結果として国際的な交流を深める契機となり、さらに自身の研究を多くの方に知っていただく貴重な機会となりました。今後も継続的なアンバサダー活動を通じて、Journal of Ethology に多くの“面白い”論文が掲載され、学会誌が一層盛り上がっていくことを期待しております。日本動物行動学会は、Video Article や MOMO の設立、そして Video Insight など、動物行動の記録資料としての動画を大切にしてきた歴史があります。こうした強みを活かすことで、他誌との差別化を図り、独自性をさらに高められると今回の活動を通じて強く感じました。
最後になりますが、ご支援くださいました日本動物行動学会の皆様、そして編集長の竹垣先生に心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。